スペイン・バルセロナ大のZilhao教授が、ポルトガルの大西洋岸洞窟でネアンデルタール旧人が食した大量の魚介類の痕跡(8~6.5万年前)を発見しました。これまでは少し食べ散らかした痕跡は見つかっていましたが、此処では、魚、カニ、貝をむしゃむしゃと食べていたという事だそうです。
他所では氷床の下で壊れたり海水面の上昇で水没したりで保存されていませんが、此処では土地の隆起があり保存されたもので、他でも見られた事だろうと語っています。海岸から2km足らずの所ですが、痕跡は豊富な石器、炒めた植物、馬や鹿にウナギ、鮫、アザラシ、かに、水鳥など実に多様な食文化なのです。注目は、370kg/m3の量なので袋か籠を持っていたであろうこと、時節によっては貝が有毒な事を知っていたであろうことです。そして、何よりもこれまでは現生人類・新人と旧人の違いとして組織的な海産物の利用による脂肪酸の摂取が、脳の認知力の違いを生み出したと考えられてきましたが、旧人はそのテストをパスしていたという驚きです。確かに岩絵も描きました(6.5万年前)し、仲間の埋葬に花を添えてもいます。
翻ってアジアでの初期新人の拡がりと暮らしは、Sundaland/インドネシア、第2図フィリピン、台湾、第3図伊豆の海辺などに示されているように沿岸地域と河川の遡行からです。今回の発見は、実は洋の東西を問わず遥かに大昔から普通に沿岸地域が使われていて、漁労採集と狩猟を共に生業とする暮らしが行われていたことを窺わせるものです。そしてその後は、漁労採集と農耕が共に沿岸地域で生業になる訳です。沿岸は痕跡の発見が困難ですが、欧米学者の目が沿岸にも向くことは大変よいことで、狩猟族に偏っていたものが正しい人類像に近づいたと評価しています。