フィールドワーカー鳥居龍蔵・東京東京帝大助教授・鳥居人類学研究所長(自宅)・「総合人類学者」の足跡は、当時、北千島・カムチャッカ半島、長野黒耀石原産地、沖縄、台湾・朝鮮・シベリア・蒙古・満州・シナ西南部・樺太等の各地に及び、後に南米(インカ)にも足跡を残されました。
現生人類は、DNA分析等から30-20万年前にアフリカで誕生、その後、数万年前に「出アフリカ」で全世界に拡散したことなど全く想像もできない時代に、当時大きなテーマだった「日本人とは」の問題意識を堅持され、「第1先住アイヌ・ルートン・コロボックル、そして、樺太から進入の新第2アイヌ」の区別論を唱えられ、ベーリング地峡・ベリンジア西端・アジア側東端のチュクチ族、特に海岸先住オンキロンに強い関心を示され、チュクチ族からの聞き取り内容を単に昔話でない注意すべき重要なことと書き記されました。チュクチ族の内陸狩猟族ですら、元々海外族という意見も貴重な重要さで、そのオンキロン竪穴住居と遺物の研究から、1.竪穴遺物はオンキロン(チュクチ前)の物だと答えた事は、吾人の大いに注意すべきものなり。2.先人をアイヌがコロボックル(樺太アイヌが、トンチ)(北海道祖人系)と言うに似る。3.海豹アザラシを追い漂泊(遊動)・猟漁。竪穴住居(アレウト、ルートン、エスキモー等)、石器・骨器、土鍋・ランプ、ごみ溜め動物骨、4.入れ墨(縄文土偶的)舟は皮製(カムチャ・ルートンは木製)、小舟仲間・シャーマン信頼社会、5.犬で狩り(アイヌ犬は南方系)、無言交易などの特徴把握は、現代視点で重要です。
学者としての慎重さからか、オンキロン貫頭衣の南方性や「最初のアメリカ人」には言及されていませんが、オンキロンに大いに注目すべしとされたやや尋常でない関心を示された記述は、記し得なかった問題意識をうかがわせ、驚きの先進性なのです。現在、2.3万年前の米国南部ニューメキシコの足跡発見で定説が崩れて模索中の世界祖史学界にとっては正に温故知新で、勿論当時の限界から全てが正しい訳ではないですが、今こそ鳥居研究成果に光を当て学ぶべきです。